初期のハリー・ボッシュものの魅力は、プロットの秀逸さだけでなく、トラウマを持つ刑事がトラウマをもつ犯人を追いかける、という設定、そして独特の陰鬱なムードにあった。殺された娼婦を母とし、そしてベトナム戦争で「トンネルラット」(ベトコンのつくった地下の基地の狭いトンネルを追跡する兵士)を経験した刑事ボッシュが追いかけるのは、どこかに精神的外傷をおった犯人。
最近は初期のこの陰鬱さが消えていてフツーの探偵小説になっていたのだが、前作の『エコーパーク』は久しぶり初期のパターンが蘇った傑作だった。だから、本書も大いに期待した。
だが、つまらない。テロリストに放射性物質が盗まれた、という発端はスリリングだが、お話は竜頭蛇尾。意外に陳腐な犯人設定、そしてありきたりの結末。テンポ良い話なので読みやすいけど、軽い。なんか、シドニィ・シェルダンの小説みたいで、初期の頃からの愛読者にはものたりない。
でも、訳者の解説を読んで納得がいった。本書はニューヨーク・タイムズ・マガジンに連載したものだというのだ。ファミリー向けに、陰鬱な雰囲気の小説を載せてもだめだろうし、シンプルなプロットとテンポの速い展開が求められたのでしょう。つまり、意識的にシドニィ・シェルダン風にした、ということか。
でも、だったら、ボッシュを主人公にしなくても良かったのに。ボッシュを主人公にしなかったら、星3つの小説かな。残念。