作者の折口信夫は申すまでもなく国学者、国文学者、民俗学者、歌人、詩人であり、古代の生活に研究の成果からだけではなく、自らのイマジネーションも交えてアウトプットできる天才だった。だから彼の考え方は時代を超えている。この作品も、古代の世界を、そして死の世界を、古代人の目でとらえ、バーチャルに体験できた者でなければ書けないすごい作品である。とにかく初めて読んだ時の感想は、怖い、だった。死者を揺り動かす人の詠唱、土に帰った身体が目覚めていくその感覚、この怖さただものではないと思った。亡霊になると、それはおどろおどろしいものではなく、今度は無限の雅量に満ちた美しいイメージに彩られる。でも、だからこそ一層怖い。とにかく日本語で書かれた類のない小説の一つ。比較するのが適切かどうかわからないが、このレベルの文章は泉鏡花が達したくらいではないかと思う。夏にこそ必読!