「日本人の死生観」と簡単に括ってしまうと、見えなくなるものがある。
著者は、日本各地の死にまつわる現場に足を運びつつ、また各種の史料や歴史学考古学の成果を踏まえつつ、日本列島に暮らした人々の死者観念の変化を古代から中世・近世・近代へと時代を追って描き出していく。それは、「日本人の〜」という安易な括りを許すものではなく、きわめてダイナミックな変容を遂げているのである。
ちなみに、著者のこうした精神史研究が優れたものとなる所以は、古墳や板碑・霊場といった今に残る遺物遺構や文献史料を踏まえて実証的に考察するにとどまらず、経験的に実証することのできない死者観念や世界観の系譜を説得的に描き出す点にある。したがって本書は読み物としてもたいへん魅力的であるし、終章で著者自身が試みているように、他のフィールドや学問分野との対話の可能性を大いにはらんでいる。宗教学や日本史といった分野以外の関心を持つ人にも広く勧めたい好著である。