加賀乙彦氏は、現代日本を代表する小説家であり、精神医でもある。東京拘置所の精神科医官となり、多くの死刑囚と面接する立場になった。この作家は、死刑囚たちが置かれている極限的状況下の心理を分析し、報告している。精神医として死刑囚たちの様々な異常心理、病的状態を科学的に観察する態度を保ちつつも、実際に拘置所で創作に目覚めた死刑囚と文学談義をしたり、信仰に目覚めた死刑囚と人生、宗教、神について語り合ったりして、人間的な絆が結ばれたこともあったことも伝えている。最後に死刑囚と無期囚の違いが吟味されるが、実はこの点は、著者が範とするドストエフスキーの創作の秘密と深く関わっているので、同じ中公新書の著者の『ドストエフスキイ』も合わせ読まれることをお勧めする。