死の問題を、現代において最前線において見つめる解剖学者と、中世研究の歴史家とが、それぞれの専門の知識を踏まえつつ縦横無尽に論じ合う。しかし、特に養老氏はそうであるが、専門分野に納まらない該博な知識の赴くまま、論じられる領域はどこまでも広がっていく。実際、「ヨーロッパの古層を訪ねて」とあるように、ヨーロッパにおける「死の観念」の変遷を主軸にした対談であるが、話題は日本にも、現代にもかかわるものへと広がっていく。養老、松原両氏の文字通り「知の饗宴」を十分堪能できる一冊。とにかく、黴の生えた古臭い知識を後生大事に守っている専門馬鹿のロートル先生ではない、本物の学者の底力を十分知ることができる、好著。三人の鼎談のもう一角、荻野アンナ先生は、この二人の前にあっては如何せん、子ども扱いであるが、若いから仕方がないか?
本書、小生は文句なく推薦の一冊であると思いますが、しいて言えば、内容が多岐に渉り、それぞれの話題の密度が濃いために、出てくる話題に関して、ある程度の知識を持っていないと少々難解かもしれません。ですから本書は、死の問題について考える際に、入門編として推薦することはできません。ヨーロッパの思想史について、そこそこの知識があったほうが、楽しめる本です(大学の教養課程程度の知識は、最低限の前提となっています)。それは、テーマ自体が、そもそもこの一冊に収めるには無理があるためと言うべきでしょう。ですが、死の問題について歴史的、思想的、文化的に内容の濃い本が少ない現状からも、本書はお勧めです。はっとさせられる、鋭い問題提起がいくつも示されています。