本書のおもしろさの一面は、「免疫反応を引き起こさない感染症」の謎解きにある。ニューギニアのクールー、約200年前に発見された羊のスクレイピー、クロイツフェルト=ヤコブ病、狂牛病など、それまで何の関連もなかった病気が実は同じ病原体によることが徐々に明かされてゆく。
その病原体といわれるのがプリオンだ。プリオンは遺伝子を含まずに増殖する「感染性タンパク微粒子」なので、「遺伝情報の伝達はDNAからタンパク質へ一方通行に行われる」というセントラルドグマに反する。もしも、その性質が本当だとすると、生物学を根底から覆してしまうほどの物質である。しかしまだ仮説の域を出ないともいわれ、その真偽をめぐる考察も読みごたえがある。
何よりも、この病原体の恐ろしさに読者は衝撃を受けるだろう。放射線照射や360度の高温でも感染力を失わず、致死率は100%。患者の脳はスポンジ化し、苦しみと絶望の果てに死に至る。狂牛病の牛を食べるほかにも、さまざまな感染経路が考えられると本書は警告する。今のところ人間の感染例はヨーロッパにとどまっているようだが、しっかりした対策を取らなければどの国でも感染の危険はある。つまり、誰一人として他人ごとでは済まされないのである。(齋藤聡海)
この本は、狂牛病の症状から病原体の正体までをリポートしたものだ。著者はピュリツァー賞も受賞したノンフィクション作家。英国を中心とした精力的な取材で、日本にも騒ぎが飛び火した狂牛病の恐ろしさを克明に描く。
特に、実際の患者が発病から死に至る様子の描写は凄惨を極める。幻覚が続き、足取りがおかしくなり、最後は物を食べることもできずゆっくりと死に至る。日本でも今、牛肉の消費が急速に落ち込んでいるが、これを読めばさらなる不安の連鎖を引き起こしかねないほどだ。
(日経ビジネス 2001/11/05 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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最近どうも広い意味で医学関係の本を読むことが多い。この本は「狂牛病」をはじめとする多くの病気に共通する原因物質(病原体といっていいのかまだはっきりしない)プリオン発見の物語である。
ガイデュシェック博士(ノーベル賞受賞者)という映画に出てきそうな魅力的な主人公がニューギニアで食人の習慣から移る病気クールーを知ったことから現代の食人である肉食および家畜の死体の完全な利用により広まる死病の恐怖。面白いといっては不謹慎だが。
プリオンはまだわからないことが多く遺伝子を持たないのに増える病原体といわれているが氷の結晶が成長するのと同じ増え方ではないかなどわれわれの常識に反する事であり、にわかには信じがたい。しかし科学技術の発達は常人の理解を超えており、生命の神秘もまた同じである。 章立てが良い。小説を読むように楽しめた科学ノンフィクションである。
まるで良くできたSF小説を読んでいるかのような読者を引き込む魅力を持ちつつ、その手の作品でありがちな誇大解釈はやや抑えられている感がある。
また感心するのはプリオンに関するデータが同関連書の内で他に見劣りしない、ともすれば優秀なものだということだ。
プリオンをめぐる実際に起こった関連事件を経時的に追ってゆく手法も見事だし、要所要所ではややフィクション的な演出があるが印象は悪くない。
何より最後まで読者を掴んで離さないパワーは賞賛に値するだろう。
これから興味をもってプリオンを調べ始める方には是非お勧めしたい一冊である。
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