初めに出てくる自己規定に躓く人が多いようですが、むしろ私はこの自己規定に引き込まれてぐいぐい読み進めました。もちろん一度で理解することは難しく、七度通読してようやく飲み込めました。もう20年以上も前のことですが。
この自己規定こそ、キェルケゴールが心血注いでたどり着いた思想の一つの帰着点です。自己がただ自己なのではなく、自己自身に関係しており、そのように自己と自己が関係していることの全体をも眺めることの出来る自己であること、卑近な言葉で言い換えれば、内省・反省することの出来る存在であることが、彼の思想の根本であり大前提です。
そのように内省する自己であってこそ、自己の内面に巣食う絶望を扱うことが出来るのです。ですから、絶望の諸段階は全て彼自身の内面にあるものを汲み出して分析・整理したものと言っても良いと思います。彼自身の自己の言わば人体実験をして見せたのが「死に至る病」です。そこには、生きた現実の人間がいます。
文字通り一人の人間が自己の全存在をかけて書くことの出来た思想の人体実験です。若い人に是非じっくり取り組んでもらいたいと思います。自分の人生を変えてしまうことの出来る破壊力を持った名著です。私自身この書と出会わなかったら、その後の人生は別のものになっていただろうと思います。