分厚い文庫本だけれども半分が訳注ないし解説という、ある意味ブッ飛んだ書物。それだから、キルケゴールの「絶望」や「実存」といった概念がどこまでも軽薄な意味で捉えられる方向に向う現今我々を取り巻く状況下にあって、本書は甚だ心強い。訳語にかんする考証も精緻を極める。訳者桝田教授は、大谷愛人(研究者。「青年時代の研究」「著作活動の研究」の著書を合計すると6000ページを軽く超える。原稿用紙に換算するとしたら……)教授によって「デンマーク語原典に直接当たるのでなかったら、独訳英訳などよりも桝田訳日本語版で読んだ方がよい」というような太鼓判を貰っておられる。値は張るが、本文を一度読めば読了というたぐいの書物ではないので、どうせ買うならばペナペナの他社版よりもこちらを手にして戴きたい。