『エジプトはナイルの賜物』とは(本書164頁)、歴史教科書には必ずといっていいほど出てくる有名な文句で、それだけでこの本の価値が分かります。古代ローマの政治家キケロが『歴史の父』と呼ぶのもうなずける話で、内容は多岐にわたり、各地の地理や風俗まで網羅してある優れた歴史書。これなくして古代ギリシア・オリエントの歴史は語れません。
ヘロドトスのこの歴史書におけるスタンスは『人間界の出来事が時の移ろうとともに忘れ去られ』るのを恐れたとあり、歴史がトロイア戦争のように『神々の戦い』としてすり替えられ、忘れ去られていくのを恐れて記録として残したと考えられ、その点においてまさにヘロドトスは『歴史学の祖』といえるのでしょう。
このため、冒頭はトロイア戦争が起こる事件の発端を両者の言い分を交えて両論併記する形を取っており、神話の部分を努めて排除しようとしたヘロドトスの歴史学的なスタンスがここに如実に現れているといえます。
その後、話題はペルシア戦争が起こるきっかけのほうへシフトしていき、新興国ペルシアに滅ぼされることになるリデュア王国の話に始まり、ペルシア帝国の始祖キュロス2世の話までが巻1『クレイオの巻』。巻2『エウテルペの巻』はペルシアに征服される前のエジプトの風俗・歴史。巻3『タレイアの巻』ではエジプトがペルシアによって征服されるまでとなっています。