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5つ星のうち 3.0
峠を思い出す,
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レビュー対象商品: 歴史紀行 峠をあるく (ちくま文庫) (文庫)
国道299号、群馬・長野県境にあたる十石峠は、道路マニアにはちょっと人気のある峠です。
かつてこの峠を越える正式な国道はなく、村道を仮に国道として代用したものでした。 その道の状況たるや、昼なお暗い深山幽谷の狭路であり、舗装すら施されていないダートが延々続くという有様。 「国道だから」と言って知らずにここに乗り入れ、半ベソをかきながらほうほうの体でここを通過したという車も多かったもの。 近年に入りさすがに舗装がなされたものの、今でも離合に気を使う隘路であることは変わらず、 ここを通る車は依然、余程のモノ好きと言っていいでしょう。 このように、近代交通から取り残されてしまった感のある十石峠ですが、かつては信州と上州・武州を結ぶ重要な交通路でした。 米の取れない上州に向け、佐久盆地からは十石の米が運びこまれていきました。この峠はまさに、食をつなぐ命の道でありました。 そして今を遡ること約100年の昔、秩父に旗を挙げた困民党が最期の望みをかけ、この峠を佐久へと越えてゆきました。 本書の著者、井出孫六氏はその佐久の出身。全編を通じて、困民党への強い想いが推し量られます。 本書で井出氏が言いたいことは、冒頭の十石峠編に集約されていると言ってもよいでしょう。 山や峰はただ、最初からそこにあった。しかし峠は、人が自ら切り開いてゆくものです。 そこには異域への怖れと、同時に希望があったはずです。峠はまさに人間の「意思」の通う場所だったはずです。 交通状況が飛躍的に発達した現在、日本人の「意思」は際限なくその範囲を広げ、 最早狭い地域の生活など顧みることすら忘れているかのようです。 麓の集落はただの通過点となり、かつて賑わった場所も今では過疎の山村です。 峠を思い出すことはまた、自然と共生してきた人間の営みを思い出すことでもあるでしょう。 本書は著者・井出氏の史観に基づく歴史紀行作品ですが、我々読者一人一人が現代を考えるヒントを与えてくれます。
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