この本は示唆に富む点でおもしろい。歴史のおもしろさと、歴史を学ぶおもしろさを同時に教えてくれる好著といえるだろう。
著者は1979年に神奈川県大和市で船に乗っているという珍しい形の地蔵(岩船地蔵)に出会った。興味を惹かれた筆者は以後ことあるたびに、この地蔵を調べていき27年を経て本という形で調査成果を公表することになった。四半世紀に及ぶ研究と聞くと、それだけ地道な作業であることがわかる。もちろん、作者には他にメインテーマがあり、調査の折についでに調べていったのだが、それにしても根気のいる作業である。
本書のメインテーマは、「1719(享保4)年に関東を中心に大流行した岩船地蔵とは何か」である。もちろん現在の僕たちが路傍の石仏に対して、多くの人たちがそのまま素通りしていくだろう。そこをあえて立ち止まり、自分が感じた疑問を掘り下げていくことは、まるで推理小説を読んでいるかのように興奮してくる。
センスオブワンダーという言葉がある。人は不思議なことに興味を覚え、それを解明していくことに言いしれる感動を覚えるのだ。江戸時代に起こった岩船地蔵というムーブメントがどのように起こり、そして現在につながっているのかはまさしくセンスオブワンダーだろう。
元々、著者の福田アジオ氏は民俗学の研究者であり、いわば石仏の歴史などは門外漢だったはずだ。しかし、大きく歴史の興味という点では同一である。その点でどうやってこの不思議にアプローチしていくかは参考になる点が多い。
もちろん、不満点もある。肝心な点についてはまさしく歴史の暗闇からでていない点が指摘できるが、ただしこれもまた今後の研究の1つの礎になるのだから意味あることだろう。
専門的になるが、石仏に刻まれた年代のみで分析しているが、もっと石材の種類とか地蔵の形態分析、技術手法からも分析できなかったのか、という不満があるがそれは望みすぎだろう。この点については考古学からのアプローチが望まれる。