本書は元々、東京大学教養学部の前期課程でのテキストとして編纂されたものである。
しかしながら同時に1冊の“歴史学入門書”としての出来映えとの観点からみても上質の部類に属する。
内容を大別すると次の3点から“学問としての歴史叙述”を眺めて見ようとなる。
(1)あらゆる文明と地域の歴史世界を、全体との繋がりの中で位置づける(=地域中心主義か
らの脱却)
(2)史料と向き合う歴史学にとっての結実は1つの歴史叙述として形をなす。けれどもそれ
は単なる数式の並んだ論文ではなく、読者にとっては1つの物語でもある(=叙述とし
てのヒストリー)
(3)同じ文章として結実する文学と歴史学の違い。それは歴史学にとっての命綱である史料
批判から生まれる構想力(=史料と対峙する時の想像力)
をキーポイントとして『歴史叙述』の限界に挑戦してみよう、との意欲が感じられる。
従来の“史学概論”が1人の研究者によって書かれていた点とは異なり、本書の執筆者は地域的にも日本史・東洋史・西洋史の他アンデス史やヴェトナム史など従来の枠組みに囚われず、また一コマの講義としても“歴史心理学”や“ジェンダー史学”など多分野に渡っている。
タイトルが『文法』とあるように、叙述を記す時の注意点を具体的に示してあるので、こうした点を1つずつクリアしていけば歴史を見る眼を養うことができる。じっくりと焦らずに一読することをお勧めする。