この本は、題名の通り、ソヴィエト史家カーによる講演録です。各章はある程度連関しつつも、相互に独立した内容ですので、歴史についてのエッセイ集といった趣です。題材は、事実と解釈、進歩史観、歴史家による道徳的判断の是非など、歴史叙述における重要な論点が詰まっています。肝心の彼の思想はというと、いずれも非常に良識的です。勿論、全面的に賞賛するわけではありませんが、根底に存在する英国人らしいコモン・センスが、彼の歴史哲学全体を調和と均衡で包み込んでいるように思えます。とかく、極端な議論がもてはやされがちな現代においては、穏やかに語ることの重要さを実感させられました。歴史研究に携わる者でなくとも、読んでみれば、きっとその後の読書がもっと楽しくなる事と思います。