本書は、第三共和政期パリの政治史・社会史を専門とする著者が、パンテオンの歴史をたどりつつ、「歴史上の人物をめぐる意識はその社会を知る手がかりになる」という観点から、近代フランスの歴史を読み解こうとするものである。「どのような人物が偉人とみなされたのか」、「偉人をめぐってどのような議論や交わされたのか」、「それらが歴史的にどのように変化してきたのか」などを考察している。
第1章は、著者の問題関心について。
第2章「汎神殿の考古学」は、パンテオンの起源について。
第3章「偉人たちの革命」は、フランス革命期について。
第4章「歴史のための戦い」は、ナポレオン帝政期〜第三共和政初期について。
第5章「ネイションを求めて」は、第三共和政期のいわゆる共和主義的政策とパンテオンとの関係について。
終章「神々の黄昏」は、現在のパンテオンについて。
歴史学におけるいわゆるコメモレイション(記念・顕彰行為)研究や記憶史の方法を用いて、「歴史をつくった偉人たち」ではなく「歴史がつくった偉人たち」という観点から議論を展開し、偉人とされた人物は政治・社会の影響を受け、パンテオンの施設の目的とともに時代とともに変化してきた点、偉人は「ネイションの創出」の手段とされてきたが、現在においてその役割を終えようとしている点、などが明らかにされている。
コメモレイション研究や記憶史にはしばしば受容をめぐる問題が指摘されるが、それは本書にも当てはまる。コメモレイションは、かならずしもその主催者が意図した通りに受容されるわけではなく、受容者はコメモレイションの意味を別の形に読み替えることがある。しかし、歴史研究において受容者の意味理解を実証的に解明するのは難しい。
しかしながら、本書はパンテオンの歴史について平易な文章で書かれており非常に読みやすく、また当時の人々の意識の一面が垣間見えているようで面白いと感じられた。