幕末好きではあるものの新選組ファンではない私は、(一部)新選組研究書の「新選組中華思想」ともいえる視野の狭さには辟易しておりました。
後発のこうした「新選組マンガ」にもその影響が多くみられ、あまり期待できる作品はありませんでした。
が、この『梅いちりん』には、良い意味で裏切られます。
いい例なのが、近藤勇の講武所出仕を断った松平主税介、新選組サイドからでは嫌なやつ扱いで終わりますが、作者は清河八郎関連の資料も当たり、松平をただの嫌なやつでは終わらせません。
そうした、新選組に有益にならない書物もふくめた、幅広い研究の成果がそこかしこに見られます。
また、あとがきにも書かれていますが、作者は格闘技をやっている人なので、剣術シーンにリアリティがあります。
絵として迫力があるというより(そこは男性誌にはかないませんが)、稽古に対するシビアさがよく表現されています。
もっともそれはこの作品のほんの一角で、本筋はまだ京に上がる前のただの剣術好きの兄ちゃんが、恋をしたり失恋したりしながらも大きく成長していく青春マンガ(…と、言いきっても良いかと)。
主人公の土方歳三はもちろん、脇を固める近藤勇や沖田総司、伊庭八郎らの若者も、それぞれ悩みを抱えながら成長していく。
その行く末の悲劇を、痛いほどわかっていながらも、この若き日を目いっぱい生きる彼らを温かく描いた作品です。
こんな優しい視点の持ち主である作者が、この後どんどん血生臭くなる京都時代や、敗色濃厚で希望の見えない戊辰〜箱館戦争をどう描くのか、まだ続編があるかもわからないのに、楽しみになります。
箱館まで描きたそうな雰囲気はひしひしと伝わってきたので、首を長くして「かれん版 新選組」の完成を待つことにします。
既存の新選組作品にいささか食傷気味、という方にはぜひお勧め。
奇をてらったトンデモ設定やオリキャラなどを交えずとも、これだけ新しい新選組が描けるのだなあと、感心しますよ。
もちろん時代劇ファンのいない掲載誌(『YOU』)の読者層を狙って描かれた作品でもあるので、あまり新選組モノを読み慣れていない方も楽しめると思います。