本作は、奇術師リュウと彼の妻となるタリーの物語が描かれた偶数章と、
お抱え運転手が殺害された事件の裁判が描かれた奇数章が交互に展開
される――というカット・バック手法が採られています。
そして、一見何の関係もないように思えるその二つの物語が、
リュウの“一大奇術”によって結び付けられることになります。
つまり偶数章が“一大奇術”が行われるまでを描いた“前日談”、
奇数章が“後日談”に相当し、物語の過去と未来を外堀を埋める
ように描いていくことで、徐々に“一大奇術”の輪郭を浮き彫りに
していくという手法が採られているのです。
なお、その“一大奇術”は〈ある殺人犯人に対して復讐をなし、自分も
殺人を犯し、そして自分も殺された〉という内容なのですが、字義通り
の意味ではなく、多分にレトリックである点は許容されるべきでしょう。
また、旧版では、袋綴じの前段階でメインとなるネタを割っていたのですが、
新版では、そのネタばらしの部分も袋綴じにされており、改善されています。
返金保証という売り方から、ひたすら“意外な結末”ばかりが強調されてきた
本作ですが、その本質はサプライズにあるのではなく、巧みなサスペンス醸成
と、巻措く能ざるストーリーテリングにあるというべきなのではないでしょうか。