幻想文学に分類される著者の最近(2010)の短編集。15の作品から成り、そのどれもが異なる語り口で興味深いが、なかでも「ドロテアの首と銀の皿」は最高。
人物、場面、文章、そのどれもが奥深い。個人的には、小さい頃、萩尾望都の静かな作品群を読んだときのような感覚だった。一つ一つの文章、言葉が静かに関係して積み重なってゆく。それは女性たちの秘め事に似ている。その静けさはまた、春樹の「世界の終わりー」の向こうの世界の静けさにも通じる。静かな世界とは、何も起こらないことを意味するのではない。それは起こりうる事柄が、我々の元に直接返ってこないということである。それはいつもある境界の向こう側に存在し、我々の生きているこの世界とつながることはない。だから安易な共感も生まれないし、さしたる興奮もなく、カタストロフィーもない。だが、その手の届かなさ、つまり静けさを少しずつ確かめてゆく、その過程が我々を惹きつけるのだ。
我々は解釈を拒否されたものに対してより強く解釈を指向する。そして閉ざされた世界に対してより興味を覚える。全く拒否された小説を読めるのはごくわずかの読者であり、完全に閉ざされた世界を読むのはオタクだ。その微妙なバランスをこの作品は保っている。それが前述の作者達に共通する部分なのだ。