武満徹の「うた」が大好きで、様々なアーティストの演奏を楽しんでいます。別のヴァージョンを探している内にこのアルバムを知りました。カウンター・テナーのドミニク・ヴィスと武満との相性はどうかと思って聞いたのですが、結果は残念でしたね。推薦できないものです。リーフレットでは解説者が絶賛されていますが、果たしてどうでしょうか。
まず日本語が上手く歌えていません。練習量や訓練の仕方もあるでしょうが、武満が作詞した珠玉とも言える愛すべき歌詞の雰囲気も伝わらず、発音が不明瞭なため、聴き手の関心が肝心の歌から外れてしまいます。
英語の曲も発音が良くなくて聞き苦しいものでしたが、曲によっては歌唱力が勝り、「ぽつねん」のように、表現力を要する曲は流石に上手く、良かったと思える曲もありますので、出来はまちまちでした。英語への訳詞は韻も踏んでいるのですが、音符との相性が上手くいっていません。音楽の素養と語学の関係の難しさが感じられました。
ドイツ語で歌われる「ワルツ」は格調の高い名歌唱でした。普段から歌いなれている言語が良いというのは、訓練のせいでしょう。
同様にフランス語やスペイン語で歌われた「雪」や「素晴らしい悪女」は、元々それぞれの国の歌のように聴こえました。武満の持つ普遍性や国際性がなせる技の冴えでしょう。それと同時にドミニク・ヴィスの技巧の上手さも併せて感じました。
ピアノのフランソワ・クトゥリエは、クラシックを勉強しジャズを奏でるピアニストですから、彼の編曲は実に魅力的でした。武満のポップス性やシャンソンへの憧憬が伴奏からも生まれています。この伴奏のアレンジは武満の「うた」の新境地を開いたものだと評価します。この伴奏アレンジは儲けものでした。