作者の語りで物語が淡々と進行していく。主人公は戦国武将、武州公こと武蔵守輝勝。
人質となっていた幼少の頃のこと。敵の首級を洗い清める美女にみせられる。
・・・法師丸は、その美女の前に置かれている首の境涯が羨ましかった。彼は首に嫉妬を感じた。(本文より)
「被虐的変態性欲」の持ち主である武州公の話といっても、「鍵」や「卍」ほどのエロティズムはまったくといってない。
実在の武州公はもっと残忍で変態性欲者であったと思われるが、谷崎氏の興味はそこにはなかったようだ。
おぞましさを感じさせない繊細な描写はさすがに文豪谷崎潤一郎である。谷崎氏が何を語りたかったか、簡単に批評すべきはおこがましいが、不気味な物語が谷崎の洞察力と包丁さばきで、美しく物悲しい性と愛の物語に生まれ変わる。異常な性愛に潜む人間の本性を描いた、これがまた、谷崎文学というべきであろう。