「武将列伝」シリーズの「源平篇」。採り上げられる人物は、「悪源太義平」、「平清盛」、「源頼朝」、「木曾義仲」、「源義経」、「楠木正成」の6名。私は著者の本シリーズや「悪人列伝」シリーズを愛好している者だが、本書は以下の特徴があると思う。
(1) 他作品と比較して、有名人が揃っている。
(2) 楠木正成を除くと、題名通り、源平の戦いを彩った人物ばかりで、この時代に興味を持っている方には格好の書である。
相変わらず綿密な史料調査の下、自由な発想で各人物が描かれている。この独自の観察眼が著者の持ち味であろう。自分の好みを隠さない所にも好感が持てる。例えば、「悪源太」に関しては、歴史上余り評判は良くないのだが、その一徹で潔い生き方を高く買っているようである。他作品を見ても、智略・策謀の持ち主よりはこうした一徹(かつ清廉)な人物に対する評価が高い。また、何度聴いても判然としない保元・平治の乱の際の人間関係も各編に渡って重層的に上手く描かれている。特に、源平共に一族内で敵味方となって闘った保元の乱の後、平氏だけが隆盛を誇った理由が明快に説明されている。「悪人列伝」中の「北条政子」編と重なる部分もあるが、挙兵前後の頼朝の様子も子細に描かれている。また、これも悪評のある義仲を悲劇の人と捉え、多くの筆を割いてその立場を明らかにしている点も貴重である。義経に関しては、個々の合戦や天才的軍事能力ではなく、その人生を淡々と追っている印象。正成は魅力的な人物で、その人柄は著者好みであろうが、本書の中では浮いている感じが否めない。
対象人物以外の他の人物の豊富なエピソードや時代の空気・流れが巧みに織り込まれており、本書の密度を濃い物にしている。上述の通り、各編が重層的に構成されており、本シリーズの代表作と言って良い程の充実した内容だと思う。