3年程前から甲野善紀氏が準備をしてきた、驚嘆の武術家・光岡英稔氏との共著。光岡氏に興味を持っている私的には「待ってました」という感じです。この本の出版が長引いた原因の一つに光岡氏と韓氏意拳との出会いがあります。
意拳創始人・王郷齎が技撃を第一に追求し、完成させたときの意拳を厳密に伝えている韓氏意拳は他の意拳とはまったく違います。それまで光岡氏が修行してきた意拳とも異なります。そのため出版がなかなかできず、また第一部と二部では内容もずいぶん違う結果になりました。
第一部で光岡氏の人となりや韓氏意拳に出会うまでの武術歴が述べられ、第二部では、韓氏意拳と王郷齎、韓星橋両先生の師弟関係について書かれています。
この本のタイトルや「内家武学研究会」にもあるように光岡氏は「武術」ではなく「武学」という言葉を使っています。「武学」という言葉には、一人の師が優れた技術を身につけた、ということに収まることなく、誰もが学べる術理を追求したいという思いがあると聞きました。
そして韓氏意拳の術理はもちろん、その世界観・人間理解は、外的な豊かさにとらわれている現代人に、人間が本来持っている感受性や身体能力の豊かさを教えてくれます。
外から何かを付け加えるのでなく、自分の能力の邪魔をする身体的・精神的要素を薄皮をむくように剥いでいくことで、常人には信じられないような能力を発揮する事ができるという意拳の教えと光岡氏の「武学」は、単なる技術の世界を越え、すべての人間が潜在的にもっている能力への驚き・喜び、生きることの不思議さ・素晴らしさを実感する手段であるとさえ思います。
ただ韓氏意拳の具体的な技術についてはあまり述べられていませんので、そのような内容を期待している人には不足感があるかもしれません。そんな人は韓氏意拳の術理を体験・体認すれば、韓氏意拳の素晴らしさ、人間の奥深さをさらに理解できると思います。