日本人の思考や振る舞いの根になっているものが何なのかを、武士道という切り口で説明する本。その「根」が武士道そのものなのかは疑問を感じたが、少なくとも「根」を説明するのに武士道が適当なのは理解できるし、また新渡戸稲造の説明がなんといっても素晴らしい。念頭に置かれている欧米人読者の理解を高めるべく(説得すべく)、論理の組み方、例の使い方等々、ある意味よく計算されて書かれていると思う。
例えば、贈り物をするとき、アメリカ人は「これは良いものですから楽しんで」と言うが、日本人は「つまらないものですが」と言って、受け取り側のアメリカ人は「?」と思う。これは昨今の海外在住マニュアルや比較文化論の本に書かれているので多くの日本人の知るところだが、本書の面白いのはアメリカ人読者に向けて、両者の物の言い方が結局は同じ思想/礼儀に基づいているのだと説明すること。品物そのものを重視するか、贈り物をする気持ちを重視するかで表面上の言葉づかいが変わるだけであって、そういう表面上の些細なことがらを一般化して日本人はおかしいとか言うのは誤った推論の仕方だと言ってのけるのはなかなかに痛快。さらに、日本人の礼儀というのは西欧(あるいはキリスト教圏)でいうところの愛に近いことを、聖書を引用しながら説明するくだりは痛快を超えて圧巻。
他にも、古代ローマの歴史、シェークスピア、モンテスキュー、ニーチェ等々が次々に引用されるが、日本人読者としては馴染みの薄い例もあってすらすら読みやすい内容ばかりではない。ただ、これほどの説明が展開されているところを見ると、さぞかし新渡戸は(アメリカ人の)奥さんから日本文化に関してたくさんの(そして難しい)質問を浴びせられたのだろうと想像できて、微笑ましい感じもした。武士道そのものというよりも、このような優れた本とそれを百年以上前に(1900年)に書いた新渡戸に誇りを感じた。