商品説明にもありますように、武士にとって何故和歌が必須の教養とされたかというのを、鎌倉時代から戦国時代までの有力武将(但し鎌倉時代の例は親王将軍ですが…)をネタにして解明していく本です。
よく聞かれる説明では「和歌というのは都の文化の象徴で田舎の武士には憧れの対象だったから」という物がありますが、この本を読めば、武士にとっての和歌はそのような単純な物ではないことが分かります。鎌倉時代においては政治派閥を形成したり、或いは都の政治党争が反映されたりするものであり、南北朝時代においては政治的に頼れる存在をヨイショするための物であったり、戦国時代になると配下にいる国人や家臣を統合する物であったりと、多分に政治的な物であったことが分かります。
また、中世武士の和歌の世界において重要な役割を果たしたのが、藤原定家の末裔であの時雨亭文庫の冷泉家であると著者は述べています…というか明言はされてませんが、各章でも必ず冷泉家が出てくることからそれはよく分かります。
一つ残念な点を挙げると、武士が和歌を詠むようになったきっかけとして”武芸で宮廷に仕えるのが武士、和歌はそのために必須の教養”とずばり書かれているのに対し(p.13〜15)、武士が和歌から遠ざかった理由についてははっきり明言されてないところです。「詩を作り、歌を詠み候事、停止たり(加藤清正掟書)」と書かれていたり(p.245)、或いは終章で、徳川家康と今川氏真のやりとりや林羅山が冷泉為満を罵倒した話を例に挙げてられるところから、おそらく幕藩政権の成立に原因を求めてられるように思われるのですが。
なお、目次を見ても分かるように、東国の中世を中心としているので、この辺りに興味のない人は読み進めていくのにちょっとつらいかも知れません。政治情勢も非常に難しい時代ですし。
最後には膨大な参考文献一覧と、重要用語の目次が載ってます。