猪山家は代々、金沢藩の経理業務にたずさわる「御算用家」だった。能力がなくても先祖の威光で身分と報禄を保証される直参の上士と違い、「およそ武士からぬ技術」のソロバンで奉公する猪山家は陪臣身分で報禄も低かった。5代目市進が前田家の御算用者に採用されて直参となるが、それでも報禄は「切米40俵」に過ぎなかった。しかし、120万石の大藩ともなると、武士のドンブリ勘定で経営できるものではない。猪山家が歴代かけて磨きあげた「筆算」技術は藩経営の中核に地歩を占めていく。
本書のタイトル「武士の家計簿」とは、6代綏之(やすゆき)から9代成之(しげゆき)までの4代にわたる出納帳のことである。日常の収支から冠婚葬祭の費用までを詳細に記録したものだが、ただの家計の書ではない。猪山家がそれと知らずに残したこの記録は、農工商の上に立つ武士の貧困と、能力が身分を凌駕していった幕末の実相を鮮明に見せてくれる。220ページ足らずとはいえ、壮大な歴史書である。(伊藤延司)
登録情報
|
|
あなたの意見や感想を教えてください:
|
||||||||||||||||||||||
|
最も参考になったカスタマーレビュー
66 人中、63人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
一級品の歴史資料、しかも面白い!,
By
レビュー対象商品: 武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) (新書)
たかが新書とみくびってはいけない。下級武士に関する歴史研究の成果をまとめた第一級の研究報告資料である。しかも、大変面白く、現代に生きる我々にも通じる様々な教訓がにじんでいる。世間的には全く知られていない下級武士の残したデータであるが、実に生々しくその時代と人々の様子を語っており、半端な歴史小説を読むより遥かにリアルでぐっと胸に迫ってくる。 実は入出金記録の調査分析という方法は歴史研究の手段としては特に目新しくはない。しかし、一介の下級武士がここまで長期に細かく几帳面につけていたというのはすごい。幕末から明治の激動の時代にこの一家が、その卓越した数学及び財務面からの管理能力をいろいろな機会で評価されて下級武士から徐々に身分を上げていったのがわかる気がする。 滅多にないこのような貴重な記録を入手できたという点ではこの著者は運に恵まれている。しかし、それをさらにこのように多くの人にわかる形にして丹念に解きほぐして著作にまとめて世に送り出した努力に賛辞を送りたい。お勧めである。
60 人中、56人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
比較の視点も行き届いている,
By カスタマー
レビュー対象商品: 武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) (新書)
素晴らしい日本史研究者が現れたものだ。著者は平素から意欲的に資料を集め、また様々な研究書を精力的に読みこなしている人だ。そうした努力に支えられていればこそ、このような立派な作品が出来上がったのだと思う。本書はコンパクトな本だが、内容はまことに充実している。たとえば日本の封建制について語るときにはさりげなく西欧の封建制との比較を盛り込むなど、実に目配りが行き届いている。文章も魅力的で、読者をぐいぐい引き込む。私は大学に勤務する研究者のはしくれとして、正直に言って著者のことがねたましくなるような読後感に襲われた。評価の星は、5個ではなく10個にしたいところである。
20 人中、19人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
市民の目がとらえた幕末、維新!,
By
レビュー対象商品: 武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) (新書)
金沢藩猪山家文書を読み解いて解説を加えた作品。この文書は、猪山家という金沢藩の御算用者という今でいえば経理・財務官が幕末(1842年)から明治初期(1879年)に至るまで営々と記した37年間の家計簿である。 職業柄非常にこまめにつけられている上、文書と同時に書簡などが含まれ、それらによってこの時代を生きた(かなりの成功者といえる)武士(猪山家は後に海軍に入り、やはり経理畑で要職に就く)の生活ぶりが時間の壁を乗り越えて浮き彫りにされる。幕末の武士は伝えられるとおりかなり貧窮していた。現代と違う結婚形態。離婚が多かったこと。今以上の子弟教育の猛烈さなど。そして歴史が変わる時に失われてゆく武士の特権とその際の士族の感情。一般の市民にとって江戸時代とはどんな時代で、明治維新とはどんな革命であったのか、さらに極めて特異な明治維新という革命の世論は武士の恐るべき困窮ぶりにあるのではないか、などこの一冊で日本史を見る目が一変するだろう。
あなたの意見や感想を教えてください: 自分のレビューを作成する
|
最近のカスタマーレビュー |
|
|
|