網羅的で偏りなく正確な著者の知識に誰しも驚くと思うが、簡潔で、要を得た記述が、また、この手の新書本としては目的に合致していて、一冊持っていて損はないと思う。なによりも、「近代」の「古典」までの紹介だけではなく、全盛期のノージックも越えて、いま評判のサンデルにまで至っている。サンデルの効果で、ロールズが見直されている昨今で、その影響で本書もできたし、「正義」の題名による編集になったのだが、類似本のない中いち早く出版は良かったと思う。少し不満を書くと、この本もまた、過去の「古典」の問題群が、継承される思想家によって「乗り越えられ」、新たな問題へと変わって行ったかのような印象を与えてしまうことだ。社会思想は、社会体制と相関的で、確かに、社会構造が変わってしまえば、問題が問題でなくなってしまう、という面はあるのだが、私には、カント以降に関しては、それはないと思っている。また、本書で教えられたハイエクなどは、明らかに時代的制約を大きく受けすぎた思想で、思想と呼ぶには貧弱に過ぎる経済理論家の感想文に過ぎない。現代思想の取捨選択は難しいところだと思う。逆に著者の見識の広さに驚いたのは、巻頭にホメーロスが出ていることで、これは、この種の本では聞いたことがなく、実は本書を手に取った最初の動機にもなった。というわけで、並みの啓蒙書だとは思えないので、勧めたい一書と思う。