ロールズ以降、正義の議論は「普遍的で絶対的な正義」を何らかの理論で演繹的に導き出す、というタイプの手法が多い。
しかし、センはそうした手法に異議を唱える。
センのアプローチは、「具体的実践において不正義をなくしていく」ものであり、「具体的な問題に解を与える」ことが指向されている。
そのため、基準の複数性や、ときには「解が出ないこと」に対しても許容する姿勢をとっている。
彼は抽象的な正義の導出よりも、実際の人々の間で対話がなされ、正義が論じられていくことの方を重んじる。
彼が民主主義を論じていくのもそのためだ。
個別個別には、彼の議論に同意しない点もいろいろある。
例えば、社会的選択理論は彼が前半でもちあげていたほどにはうまく機能しているように見えない(どう機能するかがあまり具体的に説明されていない)し、ケイパビリティをことさらに持ち出すのも正義の基準の一つにすぎないのに偏り過ぎの気もする。
またかなり具体的だが、5〜6章で擁護されているアダム・スミスの「内なる公平な観察者(impartial spectator)」は「実際の人々がどう正義を判断するか」の説明のために与えられたものなので、それを「正義は何か」を考える際に用いるのはずれている気がする。
とはいえ、彼はかなりきちんと議論を組み立ててくれているので、立場の賛否はあれど知的刺激は多いし、いろいろと得るものはあるであろう。
おススメの一冊。