かつて、わが国では「働く気さえあれば、なんとか食える」という時代があった。
「人手不足」が企業と政府にとって深刻な悩みの種だった時代が、確かにあったのである。
いま、わが国の政策決定の権限を握っている五十代より上の世代は、そういう時代に生を受け、物心つく間、日本はそういう時代であり続けたのだ。
そういう人々が「貧困」の問題について鈍感であったことは、ある程度仕方ない。
人間は自分の経験にしか学べないものだからだ。
だが、すでに時代は大きく転換している。
働く意欲も能力もある人々が、なお職を得られないというのが現実の「今」なのだ。
そういう、意欲も能力もある人々が雇用から排除されているのは、まったくもって社会の責任である。そういう人たちに「自己責任」を言い立てるのは、アンフェアを通り越して残酷である。
そして非正規労働者の労働条件が切り下げられることを黙視し続けたことにより、正規雇用職員すなわち「正社員」の労働条件も実質的に切り下げられてきた。これが、本書の主張する「貧困スパイラル」である。雇用の問題は、日本の社会の「底が抜ける」危険を胚胎している。まだ、間に合う。ぜひ、「正社員」の人たちに、この本を読んで考えてほしい。
例によって湯浅氏の冷徹な観察眼が光っている。厚生労働省が疲弊している実態が報告されている。
「厚労省そのものが「溜め」を失っている事態はまさに危機的である」(104頁)という報告には慄然とさせられる。
多くの人に本書が読まれることを、切に希望する。