『現成公案』は,道元禅のエッセンスである。しかし,原文は"禅の書"で,素人の読書百遍では誤解に陥る。本書で内山興正師は,生命実物,尽一切自己,尽一切生命をキーワードとして原文を噛み砕き,道元禅への扉を開く。自身の生命活動を通して,眼前の諸法を生命体験しながら,生命実物を生きる所に自己が現成する,と師は提唱する。
提唱中,身近な逸話も紹介される。「前後際断」の提唱中の小沢道雄氏の逸話は印象深い。小沢氏は,敗戦時シベリアに送られ,凍傷で両足を失った。その時小沢氏は「本日只今誕生」と思う事にした,と云う。両足を失う前の記憶にピシャリと門を閉じて前後を裁断し,足が有ったら・・・と妄想せず,足が無い現況を無条件に受け入れ,本日只今を生きる。そこに「日日是れ好日」が訪れ,微笑みが戻った。真似し難い禅的生き方である。
なお,「身心を挙して色を見取・・・するに,・・・水と月との如くに非ず」の提唱には疑問を感じる。「見よう聴こうと造作すると,悟り=生命実物から遠ざかる」と,素直に読むべきだろう。さもないと,他の段と齟齬が生じる。