正岡子規は35歳の短い生涯の中、とにかく明るく「楽しむ力」を存分に発揮して亡くなった、ということを伝記的事実の紹介をしながら語った本。この伝記的事実には最新の史実研究を踏まえて、今話題になっている司馬「坂の上の雲」の幾つかの描写(=NHKドラマでも引かれていた箇所)に対するささやかな反論も込められており、興味深く読めた。俳句・短歌・散文それぞれにおける子規の貢献もコンパクトだが分かりやすく説明してあり、思わず原典に当たりたくなる点で入門書としては完成度が高い。
一点ケチを点けるなら、「子規は病気も楽しんだ」という記述があるが、正確には「病床でも何気ない日常に楽しみを見出していた」という言い方になるのではないか。筆者も本書で紹介しているように末期の子規の様態は壮絶で、世話役の妹にも当り散らしている。「病気を楽しむ」余裕というよりは、病の苦しみはあるものの「残り少ない命を楽しんで生きよう」という思いの方が強かったのではないかと思うのだ。