本書は、原発事故報道を題材として、放射線のリスクの程度、リスク情報をどう伝えれば良いのか、安全と安心の関係などについて考察する。「ただちに健康への影響はない」を正しく理解できている人には、素直に読めるはずである。
福島第一原発の事故の後、食品における放射性物質の暫定規制値について審議した食品安全委員会を舞台に展開されたドラマは興味深い。公開の審議の過程では、「100ミリシーベルト以下の範囲なら明確な悪影響はない」という意見が大勢であったにも関わらず、セシウムの実効線量の規制値が5ミリから10ミリシーベルトに緩和されることはなかった。著者が委員に取材すると、
「この時期に緩めることにつながる結論を出せば、国民から批判がくるのは必至です。『おれたちを殺す気か』といったメールまで来ました。」
という回答が返ってきたという。著者は「世論という妖怪に負けた」と表現しているが、ここで言う世論は必ずしも国民多数の声ではない。脅迫まがいのメール攻撃を仕掛ける特定の人々の声で科学的なリスク評価が歪められてしまう日本の現実に言いようのない恐ろしさを感じてしまう。
BSEの全頭検査には科学的な根拠は乏しく、世界中で日本だけが続けている。さすがに、国も自治体への補助を打ち切ったのであるが、民主党が「全頭検査への国庫補助復活」をマニフェストに掲げていたことを本書で初めて知った。やれやれ。
冒頭の言葉は、福島第一原発の事故を受けて、毎日新聞編集委員である著者のまさに世界観を端的に表明したもの。味わい深い言葉である。