なんとなく手にとった事を後悔する本があるとすれば、自分にとってはこの写真集だ。歌舞伎町で、父親と一緒に路上生活をする女の子「こころちゃん」を追った写真集。
この中に出てくるこころちゃんの笑顔は、とても明るくて、無邪気でかわいい。でも、大きくあけて笑う口からのぞく歯は、不衛生な生活を象徴するように虫歯でいっぱいだ。その笑顔のアップの写真ほど、見ていてつらく悲しくなる写真はなかった。父親にも諸々の事情があって仕事ができず路上生活していると書かれていたが、それでも父親と一緒に暮らしているこころちゃんは幸せそうに見える。そういう笑顔をしている。だけど、だ。
こころちゃんは、あったかいお風呂できれいになって、あったかい部屋でご飯を食べて、段ボールではないあったかい布団で眠るという生活を知らない。もしかしたら、「たまにそんなこともある」のかもしれないけど、他のほとんどの子供があたたかい場所での生活を当たり前にしているとは知らない。そんな、無知の笑顔を見て幸せだと思えるわけがない。その笑顔は正視するのがつらい。
まわりの同じ路上生活の人々はこころちゃんをかわいがり、ご飯を食べに連れていったりどこからか持ってきたお弁当やお菓子を与えていた。それは善意による行為だけど、気まぐれに野良猫などに食べ物をあげるのと同じではないか。4歳の子供の育て方として正しいとは思えない。だけど、それがなければこころちゃんは生きていけないに違いない。その様子を目の前にしながら、カメラマンの権氏は葛藤する。なにかできないか。だが、他人にそんな権利があるのか、と。
とんでもなくつらかったはずだ。実際に自分にできるギリギリのこと〜こころちゃんをご飯を食べさせたり〜を幾度となく行い、ついに父親につめより、彼らのために仕事やアパートを探すという撮影者としての一線をこえる行為をもしてしまったという。
それらの行為は実ることはなかったけれど、どうしようもないものへの憤りや焦りや心配をかかえながら自分にできることを、シャッターを押すことをつづけた権氏の強さも素晴らしいと思う。
こころちゃんは今、母親の手により児童養護施設に引き取られて暮らしているので、路上生活からは抜け出している。父親はこころちゃんと暮らすためなんとか働きたいと言っているが、それは相当困難な事であるらしい。つまり、「仕事は選ばなければなんでもある」という考えすら恵まれた者の意見でしかないという事なのか。
なんとなく手にとってパラパラめくって、それ以来ずっと頭からはなれないこの写真集の内容。毎日気分よく過ごすためには手にとらないほうがよかった。だけど、これは読まなければいけないものだったのだ。虫歯だらけのこころちゃんの笑顔を見て、どんな気持ちをいだくかはそれぞれ違うだろうけど、見つけたら、1度手にとって見てほしい。