私は著者のことを「オウム事件」で初めて知ったのだが、その後も、何か事件があると“正義”のコメントを述べるテレビのコメンテーターだと思っていた。
なので、この作品も都はるみの出生に関しての事柄を中心に書かれているのだろうと、あまり期待しないで読んでみたのだが、これが思いがけず良い作品である。何か得した気分である。題名の通り「歌手」都はるみの姿が描かれている。
本書を書くきっかけがそうであったように、著者にとって、歌手としての彼女を描くにしても出生のことは避けて通れない事柄になっているのだが、作品の中心はやはり、「歌手」都はるみの姿である。16歳でデビューしてから36歳での引退までの彼女の心の揺れ、葛藤、引退後復帰してからの歌手としての心境の変化が、彼女自身や周囲を取り囲む人物の証言を通じて丁寧に描かれている。著者も記している通り、ここに書かれていることが全てではないにしても、彼女の実像に迫っていると思われる。
著者はこの作品を書くのに途中の中断はあったにしても3年を費やしたそうだ。そして、その間、毎日ヘッドフォン・ステレオで少なくとも1時間は彼女の歌を聴いていたそうである。「歌手」としての彼女を描くのに必要なことに違いないし、作品にもそれが生かされている。
なお、この作品が単行本として発売されたのは‘94年とチョット古いので近年の彼女の活動は書かれていない。