ミトニックが挙げる例を10件ほども見れば、なんらかの組織のセキュリティを担当している者ならば、生きる気力をなくしてしまうだろう。昔からいわれていることだが、セキュリティと人間とは本来相いれないものなのだ。組織とは、モノやサービスを提供することを目的に存在するのであり、有能で親切な従業員がそのモノやサービスを広めようとすることを期待する。人間は他人から好かれることを好む社会的動物なのだ。セキュリティの人的要素をコントロールするということは、だれかを、あるいはなにかを否定することになる。これは不可能なことだ。
ハッカーの崇拝を受けるミトニックの名声を考えると、ハッカーが社会工学を使って攻撃する最後の標的がコンピュータであるというのは皮肉だ。『The Art of Deception』に描かれているほとんどのシナリオは、コンピュータを使わない組織にもあてはまるし、フェニキア人でさえ理解したであろう原則だ。ただテクノロジーの進歩によってより容易に実行できるようになったにすぎない。電話は手紙より早いし、つまるところ、大きな組織を持つということは、大勢の他人とかかわるということなのだ。
ミトニックのセキュリティを守るためのアドバイスは、ほとんどが実用的に聞こえるが、いざ実行に移すとなるとそうでないことに気づく。より効果的なセキュリティを実現するということは、すなわち組織の効率を下げることになるからだ。競争の厳しいビジネスの世界では、効率をなにかの引き換えにするなど、まず不可能な話である。そもそも、「だれも信じてはならない」というルールがあるような職場で働きたいと思う人がいるだろうか。ミトニックは、セキュリティがいかに信頼によって簡単に破られるかを示して見せるが、信頼を抜きにして人は生きられないし、一緒に働くことなどできない。現実の世界では、組織が効果的に機能するためには、完全なセキュリティなど妄想にすぎないことを認めて、保険料を増やすしかないのだ。(Steve Patient, Amazon.co.uk)
--このレビューは、同タイトルのハードカバーのレビューから転載されています。
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ハッカーは、人あたりが良く、ジョークがうまく、ほっとけない性格で、
すぐに他人と仲良くなる天才なのです。
というのは、セキュリティ技術が向上した今日では、
セキュリティを正面から突破するより、
人間をだましてパスワードを手に入れるほうがラクだからです。
面白かったのは、ハッカーがたとえばZさんからパスワードを聞きだすときに、
いきなりZさんに電話をするわけではない、ということ。
ハッカーはまず受付に電話し、いっけんどうでもいい情報をGetします。
(名前をど忘れしちゃったんですが、そちらにジョーンズ氏さんは何人おられますか?
3人。名前を読み上げていただけますか? バリー、ジョセフ、ゴードン。
そうそう。ジョセフでしたよ。彼は何部? ビジネス開発部ですか。
了解。彼につないでいただけますか?)
電話はジョーンズさんにつながります。
ハッカーは「自分は給与係だが、給与支払いの手続きでミスがあった」と言い、
ジョーンズさんの社員番号を聞きだします。
(社内では秘密でもなんでもない情報なので、ジョーンズさんは気軽に教えます)
最後にハッカーは、システム管理者に、
「私はジョーンズだが、出張中なので臨時のアカウントを作ってくれないか」
と依頼します。
システム管理者は、電話の向こう側の人が
フルネーム・社員番号などをすらすら答えるので、信じてしまいます。
そこで彼はハッカーのために、新しくアカウントを発行してしまうのです。
つまりハッカーは
「自分のグループ内の人間にはセキュリティが甘くなる」という性質を利用するため、
まず「仲間内の情報や用語」を仕入れ、知識と用語を武装した上で、
肝心な人を騙す・・・ということなのです。
企業の情報をデータベースなどから盗む、というと「すごいコンピュータのテクニックを使うのか?」と思いきや、PCのテクニックそのものはそれほど高度なものではないことに注目しました。
むしろ、「いかにしてパスワードなどを聞き出すか」という騙しのテクニック=ソーシャル・エンジニアリングというものに主点が置かれていることがわかりました。
このレビュー時(2005年)でも、やれセキュアなサーバだ生体認証だと業界では騒いでますが、このような技術的な対策より、セキュリティポリシーも含めたトータル的な対策が必要なのだと改めて感じました。
本書の巻末には、技術的なものだけに頼らない対策方法や指針が掲載されています。各企業の経営者はもちろん、管理職・一般社員も読んでおくべき一書だと思います。
アメリカ人の手によって書籍化されたこの手口は、アメリカ独特の部分があり、すべてが日本で一致するものではありません。しかし、日本の企業(もちろん個人も)においても、セキュリティー意識を高めるためには非常に参考になる本だと思います。
近年では住基ネットの情報一元化によるセキュリティー云々が話題になっていますが、この本を読めば、メディアがあおる危機意識がいかにシロウト考えで、抽象的で的外れであるかが見えてきます。
何十ものファイアウォールと、何人もの警備員をすべて無効化してしまう伝説のハッカーの手口は、まさに「オレオレ詐欺」そのもの。セキュリティ黎明期の日本では、政府は一刻も早くこの本を各家庭・企業に配るべきでしょう。
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