『ひらめき脳』の茂木健一郎氏のエッセイ集。欲望する脳というタイトルで連載されたエッセイ24話分を収載している。各章が10ページ程度であり、仕事の合間などに読むことが可能。
全体を通しての第一感は、非常にわかりづらい、であった。理由は3点。『表現がまわりくどい』『構成が下手』『科学的な考証がほとんどない』である。本書を購入する読者が期待するのは、欲望する脳を科学的にとらえることではないかと思う。ところが、本書では雑学的な一般知識を著者の主観で解説しただけの、言葉遊びで書いた思想書のような内容になっており、それらを脳科学の面でとらえている部分が非常に少ない。肝心の科学的な部分については『まだ明らかでない』の一点張りで、結局行き着いた結論も使い古された言葉でくくられている。著者が曖昧にした部分についても研究は進んでおり、他の書と比較しても著者の勉強不足が露呈している。持ち出している一般知識もウェブサイトで簡単に検索できる情報量より少なく、連載上の字数制限を考慮しても、一冊の書として世に出すからには引用文献やわかりづらい語に注釈をつける配慮が必要と思う。エッセイ集として読むならば、主張の一貫性が重要であるが、本書に記載されている部分の客観性が曖昧であるのに反して、『客観的な批判基準に準拠せずに、延々と自分語りを続ける人たちにはうんざりさせられる』とある記載はそのまま本書にあてはまってしまう自己矛盾のように思えてならない。IT化によってスパムという悪が芽生えたことを批判しているが、その代償に、ロングテールなど多くの武器を得たことについては語っていないなど、物事を一面的に、主観的にとらえた文章も多い。さらには、情報量を単純な2進法でくくる考え(ただし欲望は「0」「1」でくくれないと根拠を述べず説明)や嗜好の変化などの記載を見る限り、医学としても人工知能に関する情報工学の面からみても、脳科学についての基本知識(または説明)が不足しているように思う。科学を置き去りにしているために、本書の『脳』を『霊』や『魂』などに置き換えてもほぼ同じ内容で多くの文章ができてしまうことがわかるが、これでは何の分野の書かわからないし、科学的裏付けのないたとえ話ばかりでは宗教本とかわりない。『ひらめき脳』『脳を活かす勉強法』と本書の3冊を読んだが、どれも科学的には鵜呑みにできなく、著者が自称する脳科学者の称号に疑問をもたざるをえなかった。
本書を読んでもタイトルから期待される結論は得られない。正しいタイトルは「欲望についての考察」と思う。単なる教訓集としても他に多くの良書があるし、脳科学としても推奨する内容ではない。読者は著者の肩書きを信頼して購入するはず。科学者の責務は、現象を限りなく科学的な目で検証し、わかりやすく読者に伝えることと思うが、本書はその逆と感じた。一概に悪書とは言えなく、単なる評論家が書いた書であれば星3つの内容も、前述の問題点を加味して星2つとした。