個人的な印象ですが、本書は2010年9月の出版であり、第1章には8月までの出来事が少し出てくるが、それ以外の章は7月までの記載に留まるので、本書は5月のギリシア危機を迎えて緊急出版ということで記載され、第1章は最後に最新情報を入れて書かれたように思える。なぜ緊急出版と思うかというと、校正ミスが散見されるから。
p14 第3.4年->第3.4章
p47 フォリエント->フォリント
p197 1.8兆ドル->1.8兆円
p261 28兆円->2.8兆円
間違いを指摘して本書が駄目な本だ、と言いたいわけではなく、出版時期と散見される7,8月までの記載と校正ミスから推測するに、本書は、実質、「2011年6月までのEU/ユーロマクロ経済」の本だと言いたいからなのである。そんな事を指摘する理由は、ユーロ危機の書籍は多数出ており、刻々変化する近年の情勢を扱った書籍であるからには、いつまでの情報として役立つか、という情報が、購入検討者には必要だと思うからである。
ユーロ主要国全体を扱っているのは少し長めの第1章(74頁程)で、後はギリシア(70頁程)、スペイン、アイルランド、ポルトガル、イタリア(各々30頁程)の、ユーロ加盟後のマクロ経済史が分析される。これらPIIGS諸国の合間に、英独仏の動静も加えられ、最終章では独仏のユーロ史と現状が分析される。
本書は、読み物として面白いとか、示唆に富む、とかいう類の本ではなく、どちらかというと無味乾燥な経済:金融新聞のサマリーという感じである。しかし、資料としては役に立つと思う。日々日経新聞などを読んでいても、少し前の事は前後関係などがぼんやりしてしまう。そういう時にまとめ本として参照するには役立ちます(そもそも本書は日経新聞社の刊行ですし)。各国のマクロ経済史に興味のある人には、2000頃-2010年前半のPIIGS諸国のマクロ経済史としても役立ちます。第1章でハンガリー、ルーマニア、ポーランド、ラトヴィア、エストニアにも若干触れられていますが、最も多いハンガリーで5、他は1頁程度です。東欧マクロ経済の現状と分析の詳細は他書にあたった方が良さそうです。
本書とほぼ同時(7月)に、日本経済新聞社から、「
ソブリン・クライシス 欧州発金融危機を読むが出ています(内容は5月まで)。こちらも2010年5月のギリシア危機を受けての緊急出版だと思うのですが、PIIGS諸国に関する記述は浅く、代わりに、各国地下経済割合比較グラフとか各国の1800年以降のデフォルト期間比率グラフ(ギリシアは独立後170年のうち50%がデフォルト期間とのこと)などちょっと変わった視点のグラフが多く、更に日本のソブリン危機の分析など、「欧州激震」と比べると、より示唆に富む読み物となっている感じがします。「欧州激震」は、基本的には資料という位置づけがします。資料の分析と解説がお好きな方は「欧州激震」、ユーロ危機の意味や日本との比較など知りたい向きには、「ソブリン・クライシス」という感じで、日経社はうまく分けて出版したように思えます。
現在ベルギーの銀行破綻で第二ラウンドを迎えているユーロ危機ですが、本書はどうしてこのようになっているのか、を少し詳細に知るには有用だと思います。出版直後より、少し間を置いた今の方が、資料本として役に立つような気がします。
私には色々役立った本書ですが、一番印象に残ったのは、ユーロ各国の銀行投資先国のクロスチェック表(これを見ると、どの国がどの国の銀行債権を沢山持っているのか人目でわかります)と、「イタリア、意外に健闘してるじゃん」というところでしょうか。例えば今月イタリア国債入札がショートし、金利が6%を超えました。これはイタリア債務累積債務残高やEU勧告の財政再建が進んでいないことが理由とされていますが、前記クロスチェック表を見ると、独仏の投資銀行がそれぞれGDPの20,30%をPIGGS諸国に投資しており、独仏の銀行自己資本率充実の為の資金の引き上げの割りを伊は食った、との見方もできます。伊の累積債務は90年代前半迄に蓄積されており、それ以降はほぼ均衡財政に近く、PIGS諸国にもGDPの8%しか投資しておらず、かなり堅実です。
著者はIMF出身なので、データも分析もIMF寄りですが、それはそれで立場が明確でよいのではないかと思います。一方でIMF批判派のデータに基づく情勢分析や対策本も読んでみたいと思いました。