次郎物語(上)には、第一部と第二部が掲載されている。
第一部は、幼い頃に里子に出された次郎が、実家に連れ戻され、家族間の葛藤の中で成長していくところから、一家の没落、母の死までが描かれている。第二部は、母の死後、父の再婚から、中学に入学し朝倉先生に出会い、「愛されようとすること」から「他者を愛することへ」自らの生き方を転換させていこうと次郎が決意するまでが描かれている。
この手の作品(少年の成長を描いた作品)は数多くあるが、次郎物語はその中でも群を抜いて優れた作品だと思う。それは、少年の心理描写の緻密さと、物語としての不自然ではない面白さが群を抜いているからだ。物語は、たくさんの小さい出来事から構成されているが、ひとつひとつの出来事の描写が味わい深く、何度でも読み返したくなる。愛されないことからくる苛立ちからつい犯してしまう乱暴や失敗、大人に誉めてもらいたいがためのスタンドプレーのような行動、そしてその後にくるほろ苦い気持ち・・・子どもの頃なら誰でも覚えがあるのではないだろうか。この作品を読むと、少年の成長過程に、「大人」がいかに重要であるかを思い知らされる。
下村湖人は、この少年心理を誰よりも深く理解していたに違いない。大人が読めば、子どもの頃の気持ちを切々と思い出すこと間違いなしであるし、少年少女が読めば、夢中になって読み、自らの生き方について考えることができることと思う。この次郎物語(上)は、文句なしの秀逸な日本文学である。