「檸檬」はじめ、この短編集に登場する人物は、皆どこかを病んでいる。文字通り身体が弱い。そして身体に引きずられるように心も健康とは言い切れない。これは若い時分から病を持ち、31歳の若さで夭折してしまった作者の分身だろう。
しかし皆病んでいる自分を後ろめたく思い、美しく健康なものから目を逸らしながらも、「病んでいる自分とその自分のみが持つ世界」を楽しんでいる感がある。
実際、病む主人公の見る世界はどれもこれも幽玄で美しい。平らなガラスがまっすぐ光を通すのに、ゆがんだガラスが不思議な乱反射を見せるように、主人公の世界は、ところどころ水滴を垂らしたように歪んでいる。この短編ではその世界を、誌情豊かな言葉でわれわれに垣間見せてくれている。中でも表題の「檸檬」、「Kの昇天」、「桜の樹の下には」は梶井の持つ独特の世界観と幻想的な美しさが響きあう傑作だと思う。