日本陸軍の機甲史を概括できる本として有用です。文庫本にしては図版も豊富で、かなり参考になります。あと、紙数はきわめて少ないのですが、輜重車をフォローしたのも良いと思います。なにしろ輜重車なんて、ほとんど誰も相手にしてこなかった分野ですから。
惜しむらくは、記述が事実の羅列に止まってしまい、それぞれの事実がどのような歴史的意義を持つのかという点に対する考察が物足りない点でしょうか。しかしこれは本邦で出版されるミリタリー関係の本が共通して抱えている問題ですので、ひとり本書の著者だけを責めるのは酷かもしれません。
それから、先行研究の踏まえ方が気になります。一例を挙げますと、p.375で「山羽式蒸気車、タクリー、さらに国産軍用車といい、欧米輸入車に比べて性能上優劣を見ないほど対等のものであったが」とあります。しかし、吉田真太郎のタクリー号はともかく、山羽式蒸気車はロクに走ったかどうかもよくわかっていない車両のはず(佐々木烈その他によれば、尾崎正久『国産自動車史』に誇張が多すぎるとの由)。どうしてそういう評価が下せるのでしょうか。
気になるといえば、史実への言及の仕方も気になりました。たとえばp.93で「ソ連軍の不法越境に端を発したノモンハン事件」とありますが、旧来の国境線を満州国が承継しなかったがために係争地となった当該地域での紛争事件について、その原因をどちらかの「不法越境」に求める書き方は不適切でしょう。
あと、これは編集に関する問題かと思うのですが、本文と図版の関係がわかりにくい箇所があるのはいかがかと思います。たとえばp.270〜p.271のヘンシェル牽引車は、本書においてどのような意義のある写真なのでしょうか。もしかしたら台割の作成がうまくいかなくて、埋め草代わりに挿入したのかと勘繰ってしまいます。
いささか厳しい書き方になりましたけれど、それでもなお本書は、誤謬を排しつつ読むことで得るものが大きいと思います。そういう意味で読者を選ぶという問題は残りますが。