富野氏のガンダムを見ていた世代が、今では社会に出て30代後半から40代になり、社会を動かす最前線に立っている訳だが(私は36歳になるが)、その私達が現在作られているガンダム等を見ていてまず思うのは、「今の製作者の多くが、アニメ漬けで育った、”大人”と”社会”をリアルに表現できない”オタク”」ということである。
(富野氏は以前から、そういう現状を手厳しく批判していたが)
10代の少年少女が主人公である点は昔と変わらなくとも、その「子供」がもっともらしい理由があっても簡単に指導者のような立場になり、「世界を救ってしまう」といったストーリーに違和感を覚えた、私と同世代の大人は多いのではないだろうか?
私の同世代の多くが今では現実社会の中で、組織の中間管理職などで苦労していると思うが、人を、社会を、組織を動かすということが、いかに巨大で困難なことかを日々実感しているはずだ。
そして、アニメに描かれる”彼ら”の言動が、余りにも”キレイすぎる”ことに違和感を持ちはしなかっただろうか? ”彼ら”の言動に、ハッキリと正誤の白黒がついていることが多いことに違和感を持った方も多いのではないだろうか?
「世の中って、そんな単純なものじゃないよ」と歯がゆく思ったことはないだろうか?
(※ネット上で見る若い世代のアニメ感想等を見ると、やたらと”黒い”とか”汚い”とか、簡単に道徳的善悪論で判別してしまう見方が多いことに気づく)
一方で目立つのが、そういった作品群に描かれる”大人たち”のステロタイプなチープさである。
彼ら製作者はアニメ黄金時代に少年期を送った私たちの同世代なのだが、恐らくアニメ漬けで育ってその業界に入り、市井の一般的な生活体験に乏しいのだろう。”普通の大人と社会”というものがまったく描けていないのである。
登場するのは、”パターン化され、善悪いずれに属しても言動がキレイ過ぎる美少年美少女”と”まるで背景記号のような大人たち”だけだ。
(※ただ一方でこれらは、今の私達大人が、若い世代に対して、”現実に存在する潔い大人像”を現実に見せてこなかったことに対する”痛い”結果でもあるのだろう。
1970〜80年代、「新人類=ニュータイプ」と呼ばれた私たちの世代も、結局は青少年期には冷ややかに見ていた筈の”普通の大人”以上にも以下にもなりえなかったことの証左でもあるのだ)
まがりなりにも、青少年期を脱して実社会に出た”大人達”から見れば、人間というものは、単純に美しくも綺麗でもないし、一方で極端に”黒く”も”汚く”もなく、その間をフラフラと行ったり来たりしながら、格好悪く、しかし一生懸命に、日々を”生臭く”生きていく生き物だと知っている訳で(だからこそ、人間は悲劇を、或いは喜劇を繰り返す生き物なのだが・・・)、”アニメ”に描かれるような”綺麗さ”も”汚さ”も現実にはありえないし、そのようなもので世界は動いていないと痛感するのである。
富野作品が画期的だったのは、そして富野ガンダムが魅力的だったのは、私から見れば別に”戦闘シーンや兵器がリアルでカッコイイ”などということではなく、そこに登場する人間たちが異様に生々しく、煮えきらず、エゴイスティックで、”生臭かった”からだ。
そこに描かれる人間たちの”業”の生々しさにこそ、私は(或いは私達は)惹かれたのだ。
前置きが長くなったが、作者の福井晴敏氏が一部で富野監督の後継者と目されるているのは、そういった”ナマの””現実の”社会と大人を書ける力量があるからだ。
主人公は少年少女であっても、ガンダム・ユニコーンをはじめ福井作品の世界を動かしているのは、現実の”特別カッコよくもなく、良い人でもなく、一方で悪人でもない”普通の大人たちであり、だからこそ生まれる悲劇、人の業の悲しさを”富野由悠季の弟子”に恥じない表現力で描いている。
(※と同時に、ガンダムのメッセージ性は、少年少女たち新しい世代に希望を託する性格を帯びてくるのだが、それが危険な”諸刃の剣”であったことを、我々の世代は90年代以降に起きた様々な事件を通して実感している。
富野氏は、ガンダムエース創刊号において、「こんな本(※注 ガンダムエースを指して)を読んでいてはダメだ!(=現実の世界に戻れ!)」と富野氏一流の表現で、警鐘を鳴らしている)
最後に、本の装丁にはクレームを付けたい。
まるで”コミックス”並みの安い装丁の表紙と作り。だから、小説なのに「コミック・コーナー」に置いてある。
内容は素晴らしいだけに、2,000円を超えてもきちんと重厚な表紙とハードカバーで、新書として文芸欄に並べられる本にして欲しかった。
せめてもの抵抗で”文芸カバーバージョン”を買ったが・・・宮部みゆき氏の推薦文が短いが素晴らく、最低限の慰めにはなった。
曰く「ガンダム? モビルスーツ? いえいえ。将来の若者に向けた”戦争と平和”ですよ・・・」。
簡潔に素晴らしい評だと思う。ガンダム市場の加速する”オタク化”に一石を投じる良作である。