しっとりとした静かな語り口で、年齢も性別も異なる六人の、人生のあるシーンが
切り取られている。
前作『九つの、物語』がとても愛らしい物語であっただけに、趣の違うしみじみとした
“橋本紡の世界”に目を瞠る思いだ。
東京・深川を舞台に、六つの橋に纏わる話は、ひとの心の襞が丁寧に描かれる。
蟠りやうまくいかないことを抱えた人たちが、ふっとある時、
自分の気持ちに素直に向き合ってみる。
全てが解決するはずもないが、橋を渡ると風景や風向きが変わるように、
気持ちが動き出すところがいい。
海が近い深川の地ならではの、水の匂い、鼻腔を掠める潮の匂いなどが、
主人公たちを微かに覚醒させる。
六つの橋に託された、それぞれのひとの思いが切々と迫る。
迷いながら渡る橋。思い出深い橋。揉める双方を繋ぐ橋。乾いた恋の橋。
忘れかけた夢を思い出させた橋。新しい生活に雄雄しく踏み出す橋。
「永代橋」がいちばん好き。わけあってひと夏を深川のエンジ(じいちゃん)宅で
過ごした千恵(小学生)が、周りの人びととの関わりのなかで、ぐっと成長するさまが
愛おしい。エンジがまた、武骨なのに愛情深い粋なじいちゃんで、
ふたりのやりとりが絶妙だった。