杉材を用いたマンションの住民に突如発生した杉花粉症と、12年前に発生した男女の心中事件。
およそ結びつかなさそうなふたつの謎が、一方は林業の実態と林学の知識を交えながら、もう
一方は遺族の思いを乗せて展開し、徐々に絡み合い、ほどけていく。
社会問題と個人の物語を交錯させる構成力、さまざまな登場人物の群像劇など、永井の初長編
『枯れ蔵』と共通項は多い。ただ、展開にいささか難があって多少すっきりしない前作と比べて、
永井はこのデビュー第二作で独自の魅力をあますところなく発揮している。それは、女性らしい
(差別的意味ではない)穏やかで細やかな語り口だ。唾棄するような「悪人」がおらず、作者が
登場人物に向けるまなざしは、決して感傷的ではないが、どこか暖かい。
他のレビュアーの方々による本作の評価はさほど高くないが、本レビュアーが参照している創元
推理文庫版(2009年)では、あたかもスギを枝打ちしたかのように文章がこなれている(違う版
に関するレビューをまとめてしまうアマゾンの問題点はいまだ改善されていない)。
最後に、著者の永井するみは2010年に亡くなられた。同じ1961年生まれで奇しくも同年に鬼籍に
入った北森鴻と並んで、あまりにも早く失われた才能が惜しまれる。本書に関心をもたれた向き
は、『枯れ蔵』や『ミレニアム』など彼女の社会派としての力量が発揮された作品にも目を通し
ていただければ、と思う。