いつかはこうしたものとしてまとめて読みたかった、という
丸谷さんの愛読者の欲求を満たしてくれる充実した評論集。
さすがジョイスの代表作の翻訳を出した版元の刊行物というべきか。
他社の大衆文芸誌に長く連載している話し言葉ふうの軽妙なエッセイ
(の単行本化、および文庫)なども、もちろん愉しいが、
ときにはこうした、力のこもった本格的な評論集もいい。
巻末の初出一覧を見れば明らかなように、必ずしも最近の執筆ばかり
ではない。中には前世紀に著したものもある。発表順でもない。
だがそこは(本書でも賞揚する)『新古今集』の稀代の読み手である
丸谷さんの本。この和歌集同様、選択と配列の妙が存分に生かされている。
つまり、「ジョイス、古典、近代、藝術」の4部構成が、
あたかも勅撰和歌集の部立て(春夏秋冬恋…)にならった私家集のよう。
新旧のテーマの組合わせの中に、過去(1991年)から直近(2009年)の
文章まで、蕪雑な混在というより、巧緻な綾織りとして仕込まれてある。
個々の評論のおもしろさは、いわずもがな。かくして、個々のテーマが
補完し合い、協奏し合ってなんともよい読み心地。
版元や編集者の打算や都合を差し引いても、むしろ、こうしたカタチで
まとめてくれたことに感謝。
精妙・豊穣・諧謔・含蓄と、様々な魅力で、長く手元におきたい一冊。