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この人めちゃくちゃ頭良いな、到底かなわない、と素直に感服させられる人がたまにいますが、丸谷才一氏もそうした人の一人です。この本に収められている短篇は、どれも筆者の知性と技巧が堪能できる素晴らしいものです。短いページ数の中で、まずその文章の意図・方向性を明らかにし、その狙いにしたがって書いてみせ、さらにその上を行ってしまう重層的な構造を持った表題作が群を抜いて素晴らしい出来栄えですが、他の二篇も、それぞれに味わいがあって、本を読む刺激を再認識させてくれる文章になっています。文字という形而上の産物を徹底的に利用して、リアリティをとらまえる、そんな勢いがあります。参りました。
恐るべき構成力と技巧を以って精緻な虚構を構築する表題作がやはり白眉ですが、一見軽く書き流したようにも見えるユーモラスな短編「鈍感な青年」も見逃せません。人はいいがどこか抜けたところのある青年と、可憐で頭の回転の速いガールフレンドとの、なかなかうまく結ばれない、童貞と処女のもどかしい恋をコメディタッチで描いた小説なのですが、とにかく細部が凝りに凝っています。作者の視点は基本的に主人公の青年に寄り添っていますが、時々客観的に彼の鈍感さを哀れんだり、おかしんだりしていて、こういう自在な視点の変化は漱石の「三四郎」に並ぶ巧さです。軽く笑いながら読めて、それでいて読後には一抹の甘酸っぱい寂しさが残る。現代最高の文章職人・丸谷氏の芸に酔いしれましょう。
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