機能や効率が何よりも優先される時代に慣れ合った生活は、実は、薄っぺらで貧しい精神とも慣れ合ってしまうということに中々気付かない。便利さや見た目のスマートさと引き換えに忘れ去られるベーシックさには、永年の風雪をくぐりぬけて鍛え抜かれた凄味があり、流行を衒うあざとさとは無縁の豊かさがある。この本は、服作りにすべてを賭けた小澤夫妻と横浜元町商店街の今日に至るまでを綴ったものだが、仕事に対する想像を絶する真摯な態度と厳しさ、お客様への思いの深さを十二分に感じ取ることが出来る。一旦引き受けたことは採算が合わなくても妥協せずにやり遂げる。そんな思いのこもった服に宿る豊かさは通り一遍の形容を受け付けない素晴らしさであろう。また、オザワ洋装店が横浜元町商店街なしには存在しなかったこともこの商店街が辿ってきた道のりを語るエピソードによって深く納得出来る。殆どのひとが忘れてしまった「おもてなし」の精神を鮮やかに思い出させてくれる、何とも懐かしい様なふくよかないい匂いのする本だ。そして、自分が忘れそうになっていた大切なものと、そんな大切なことを忘れそうになっている自分の迂闊さに気付かされる、恩人のような本でもある。