長編小説では一般的に途中経過の描写に力が込められ、結末が中途半端になることが多いのですが、本書の結末は本当に優れています。結末で初めて明かされる「模倣犯」の意味に思わず感嘆したことも含め、本巻は全巻の中で私が最も好きな巻です。
結末の描写は、推理小説が好きな方には不満が残る内容のようです。しかし本書のテーマは、殺人劇の完成度や、犯罪心理の解明ではありません。日本の推理小説では、手口が残虐かつ巧妙な殺人がやたら美化されますが、本来人殺しはそのように美化すべき物ではない。本書の主犯のように、肥大化した自尊心故に、褒め称えられて次々にボロを出す人物は、現実には吐いて捨てるほどいます。姉や高井和明のために最期に僅かながら涙を流した栗橋浩美と違い、ピースには人間としての救いが一切ないので、歪んだ自尊心を汚され、被害者たちを踏み躙る行動に出ても、少しも不思議ではない。それに、本書で宮部さんが本当に描きたい人物は、ピースのような人でなしではありません。
同級生を殺され、自身も犯人に遭遇して心に傷を負う女子高生や、高井和明が殺人犯にされて思い悩む中年女性まで、事件に巻き込まれた人物の内面の描写には、本書では一切無駄がない。真一の前で泣き崩れる有馬義男の姿、被害者を犠牲になる前に救出したいという警察官たちの決意、名も知れぬ母と娘の姿。1つ1つの描写が、私の心に強く焼き付いています。「面白い」と言うには本書は余りに重い内容ですが、被害者の痛みや人間同士の絆の尊さを、これだけ見事に描き切る宮部さんの力は凄いと思います。
犯罪被害者の癒されない悲しみには目も向けられない一方で、凶悪な殺人犯がメディアで注目を集めて褒め称えられ、英雄視される。そうした昨今の風潮に違和感を持つ私のような人間には、本書は間違いなく、一生忘れられない1冊になると思います。