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駆け出しのジャーナリスト滋子は、事件のルポを週刊誌に掲載しつつどうしても行き詰って書けないのは所詮事件が彼女にとって他人事だからだと、被害者の祖父有馬から看破されてしまう。滋子はおそらく作者の物書きとしての分身だろう。たとえこの作品がフィクションであっても犯罪小説を書く人間として、被害者の側の気持ちを掬おうとする作者の真摯さがうかがえた。
翻って犯罪者の心理については、浩美の心理に深く分け入っいるわりに、ピースの実像は見えにくい。最後に彼の生い立ちが暴露されるが、それがどう彼を犯罪に駆り立てたのかがわかりづらい。
さらに難を言えば、ピースが華々しくマスコミに登場してから、警察もジャーナリズムも彼に疑いの目をむけ彼の裏側を暴こうと動きだすまでに時間がかかりすぎた。信じがたいくらいのろい。大きな手がかりとなるはずの「声」の問題もほったらかしで、なんともじれったい。ピースの特殊な立場が目くらましになって、彼への関心がずれてしまうという理由はあるにせよ、あんまりだ。大団円もあっけなく真犯人をつきとめるまでのサスペンスがまったく機能していない。
ただミステリーとしてはイマイチだけれど、有馬、真一、滋子、樋口めぐみ、高井、浩美らの人物造形は素晴らしく読みごたえがあった。
多くの人が書かれているように,物語世界の全体を俯瞰するためとはいえ長過ぎると思いますし,所謂「犯罪小説」が好みの人には登場人物のキャラクターや最後の真犯人の稚拙さが納得できないかもしれません.また,やはり「火車」を超えていないと言われたら,そうかもしれないとも思います.でも,それなら読むに価しないかと問われたら,やはり読む価値は有ると思うのです.ちょっと甘いかもしれませんが,5つ星にしたのはそのためです.
最近巷に溢れる犯罪小説の犯人は頭が良くてスマートな人間が多くなってきました.でも,彼等が散々に猟奇的犯罪を犯した挙げ句に「だから人間の本質は残酷なのだ」みたいな??とを言われても,本当にもう結構という気しかしないのです.いつからか犯罪者がヒーローのように扱われる本が巷に溢れているのに違和感を感じるーーそういう感覚を持っている人になら,この本は絶対にお勧めできます.
その意味で,本書の山場は前畑が真犯人と直接対決をするところではなくて,有馬義男と真犯人が電話を挟んで対峙するあのシーンにあると思うのです.連続殺人者でありながら自らの知性と正義に耽溺する真犯人に対し,「それでも犯罪者は愚かだ」と叫び,反駁し,論破してくれる彼の2ページに渡る台詞こそが,作者の書きたかった言葉なのではないでしょうか.
最初に述べたような箇所で批判するのは易しいでしょう.それでも私は,特に最後の50ページは,読む価値が有ると思うのです.
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