里山が秋を迎えた頃、強い風が吹く。その風が榧の木祭りの始まりを告げるのだ。遥か昔からの古い風習が支配していて、榧の木を神のように崇め奉る独特の風俗をもつ、外の世界とは隔絶された里山のお祭りの話。
祭りそのものは成人を迎えた者。既に成人を迎えている者だけが参加できる。子供は参加しない。子供には祭りの詳細は教えない。それは禁忌だ。そして祭りが終ると参加した者の内二人だけが消えているお祭り。祭りそのものはシンプルで榧の実をいかに多く集める事が出来るかと言うもの。一位を取った者はカミと呼ばれ、誰でも好きな者を花嫁に出来、最下位を取った者はゲスと呼ばれ里を追われる。
正直者で純情な主人公ガシンは父親が誰かを知らない。ただ、父親が榧の木様だと言う事だけしか解らなくとも、純粋にそうなのかと受け入れてしまう少年。そして初めて榧の木祭りに参加する。ガシンは好きな子を花嫁にしたい。ただその一心で一位を取る。そして花嫁と榧の木の下の穴で一夜を過ごす。他の大人達も好きな者同士一夜を過ごす。この事は他言無用。
だが、祭りが終ろうとしていても、ガシンは穴から出る事は許されない。花嫁は出て来いと急かされる。でも出て行きたくない。もう二度と会えないのならば一緒にここに居たいと言う。でもそれも許されない。正直者で純情なガシンでも既に悟っていた。俺は榧の木様だ。ここから出る事は出来ない。でもお前と、その子の為にいっぱい榧の実を降らしてやるから。来年も、再来年も、この先ずっと。そして穴は閉ざされた。
終盤のくだりでは僕は涙が出て止まらなかった。こんな悲しい別れがあるものかと。里の掟は絶対。榧の木祭りとは里の人数バランスを保つための口減らし、また、里の神に捧げる生贄の祭りだったのだ。やりくり上手な大人たちは、カミを取らぬように。ゲスを取らぬようにと微妙なパワーバランスで榧の実を拾っていたのである。それを正直者で純情なガシンは頑張りすぎてカミを取ってしまった。くしくもガシンの父親も榧の木様である。ガシンの母は夫、そして息子までも榧の木祭りに奪われてしまった。その心境を察すれば更に悲しく悔しいものが込み上げて来る。
悪習だ。こんなものは悪習だ。でも何処の世界でも生れ落ちた所の世界が全てで、それに従わざろうえないのが実情。それを考慮してもこの里は榧の木を通して永遠の輪廻を回っているようにも思えた。
なお表題作は
【第9回(1977年)新潮新人賞】受賞作。
【第78回(1977年下半期)芥川龍之介賞】受賞作。