私は、「商品の説明」を読んで、かなりの期待感を持ってこの作品を読み始めたのだが、全くの期待はずれに終わってしまった。私は、この作品を、「音楽に全く縁のなかった少年が、吹奏楽の素晴らしさに目覚め、先輩・友人・教師とともに全国大会を目指す過程が熱く綴られた感動の物語」と思って読み出したのだ。しかし、この作者の語り口は、どこまでいっても、プロらしさを感じられないほどに淡々としており、ストーリーにも、これといった劇的な起伏がないのだ。私は、途中から、「これは、思っていたような作品とは違うな」と違和感を感じ始めたのだが、結局、その思いが変わらぬままに、読み終えてしまったのだ。
私は、中沢けいを読むのは初めてなのだが、少なくとも、この作品での彼女からは、劇的な構成力とか、音楽の素晴らしさや音楽をすることの感動を、言葉だけで読者に伝え、共感させるだけの筆力は感じられない。
同じように音楽に打ち込む少年少女を扱った作品としては、「神童」、「ピアノの森」といったコミックスや、「スゥイングガールズ」のような映画が挙げられるのだが、こうした作品には、熱い感動が沸き上がってくる場面があった。しかし、この作品には、それがないのだ。たしかに、小説には、文章という限られた手段しかないという不利はあるにせよ、もっと、感動を呼び起こすような描き方があったはずと思うのだ。
もう一つ気になったのが、しばしば文中に割り込んでくる「うさぎ」の扱いだ。一応、灰色の壁で塗り固めた主人公の心の中に、外界に耳をそば立てる「うさぎ」を棲みつかせるという設定はわかるのだが、途中からは、なぜ、ここで「うさぎ」が出てこなければならないのか、その必然性が、見えてこなくなっているのだ。そんなものをわざわざ持ち出さなくても、物語は何の支障もなく成立しているだけに、その取って付けたようなわざとらしさに、違和感を感じずにはおれないのだ。