☆アジア系の監督では、アクション派のジョン・ウー監督とドラマ派のウェイン・ワン監督に続いてお気に入りの技巧派アン・リー監督の作品で、どんな題材でも難なくこなしてしまう器用な彼が選んだのは南北戦争をテーマしたウェスタンというのが如何にもアン・リー監督らしい静謐な判断力だと思う。ハリウッドのビッグバジェット映画の『ハルク』や、チョウ・ユンファ&ミッシェル・ヨー共演の時代劇『グリーン・デスティニー』、勇ましいセックス・シーンが話題性を呼んだトニー・レオン主演によるサスペンス『ラスト・コーション』等々は、さほど感心できなかったが、本作は筆者が大好きな西部劇の美味しいエッセンスをたっぷりと凝縮されている。この映画が目指したテーマ性と趣向には重石を背負ったような苛烈な厳しさが充満しているが、2000年に突入して今や絶滅状態だった西部劇が少なからずであるにも関わらず、ひっそりとしぶとく製作されていたという事実はお世辞ではなく本心から嬉しかったデス。その意気やヨシですな!と、製作スタッフを褒め称えたいような気持ちになりました。舞台は南北戦争。ジェイク(トビー・マグワイア)とジャック・ブル(スキート・ウールリッチ)は、ミシシッピーとミズリーの州境に住む気心の知れた幼なじみ。しかし、この一帯は北軍と南軍の境目でもあり、隣人同士が、親子同士が、友人同士が、敵対心を燃やし略奪や殺戮を繰り広げるアンダーグラウンドの世界であった。大切な家族を北軍に殺された2人は、南軍の正規軍ではない民兵に身を投じる。彼らは大集団となって北軍を脅かすが…。という西部劇。馬が嘶き、馬の大群が疾走する爽快な躍動感がとにかく圧巻でフレッシュな魅力を醸成する。米国人ではない、台湾出身のアン・リーさんが初めて挑戦された本格型ウェスタンとも言えるが、その明確な着眼点にはいっさいの錆や曇りがない。序盤戦からハードな残酷描写で幕が開く。これはマイケル・チミノ監督による世紀の大失敗作『天国の門』で描かれたジョンソン郡の大虐殺に通じるアメリカが消し去りたい恥部の歴史であろう。画が美しいだけに皮肉にも、いっそう戦闘描写が血生臭く感じるのは因果応報でもあるし、アン・リー監督が切り取る大自然は例えようもなく雄大で美しい。よく澄んだ青空に緑の大地。であると同時に、そこで展開されるのは暴力と暴力が激突する虚しい闘いと倦怠感だけが残るのみ。ジェイクとジャック・ブルの2人は帰郷を迎える事になる。清楚な未亡人スー・リーを演じている歌手ジュエルが人肌脱いだ一服の清涼剤のような役目を担っている。大地の草原で芽生えるロマンスや友情にもホロリとした優しさがひしひしと沁みてくるが、それとは正反対に、同じ民族同士が争う事の愚かさや矛盾の警鐘が一段と作風に現実味を与える事に成功している。終幕のルックな余韻にも思わず唸る、アン・リー監督入魂の珠玉ウェスタンに違いないが、もっと世間体でも評価されていい筈なのに、Amazonサイトでのレビュー数が思いの外少ないのがあまりにも惜しまれる、モッタイない秀作です☆。