最初は頽廃と破滅の美、次の段階が死と腐敗に魅入られる人の姿、そして最晩年が人工的な都市での閉塞的が沸点に達する状態--バラードの作品世界は大雑把にいうとこんな風にゆっくりと変化を辿ったように思います。
その中で本書は、2つ目の段階から最後の段階へ移る途中、しかも最初の世界観も含むという、いわばかなり贅沢にバラードの特徴を味わえる作品です。
しかもストーリーの展開はこの後発表された作品と比してもスピード感があり、かなりスリリング。思い込みの強いカリスマ的人物と、動機付けがはっきりしないまま流されるように行動する人々もこの作家らしい。
そして人間的な活動の時間が止まって腐敗だけが進む世界は、それはそれで美しい。けれどこの腐敗の思想は、単に狂気というには妙に生々しいので、我々の現実世界の足下を思わず確認せざるを得ないという、これもまたバラードらしくこちらの深い思考を促すものです。
バラードの作家性を堪能したい人はもちろん必読ですが、この作家に思い入れのない読者をも十分魅了するに足る作品です。